神聖フリナリカ王国盛衰史 異説集

◆序文


 前書きにかえて、この「神聖フリナリカ王国盛衰史 異説集」について編纂者よりご説明申し上げる。
 そもそも正史としての「神聖フリナリカ王国盛衰史」については皆々様よくご存知の事と思う。遥か悠久の昔にこの大陸に芽を吹き、かつて一度は雪深い北の果てから異族の跋扈する南国までをあまねく支配下に置いた我らがフリナリカ王国の輝かしい歴史が克明に記録された、恐れながら大聖典に次ぐ国民的な書物である。
 歴史家達にとってはまさに聖典であり、下等学校の児童たちにとっては暗記せねばならぬ手強い相手であるが、いずれにしても我々王国民の精神の基盤をなす、教訓と栄光に満ちた最良にして唯一の物語であると申し上げて差し支えないだろう。

 「異説集」に話を戻す。
 もともと「盛衰史」は各地に残る伝説や民話、史跡に残された軍事的資料などを集約し、後世に編纂された書物である。編纂に当たってはより多くの情報をもとに、正確かつ公正に行われるよう細心の注意が払われた事は疑いようがないものの、物語という構造が採用されたために避けて通れない命題も発生した。具体的には矛盾点の矯正、民話の亜種的な枝葉からどの筋道を正史として採用するのかという問題、さらには断片的に過ぎるために物語に組み込む事が出来なかった資料の数々の取り扱い、などなど。

 それら正史からあぶれた資料や物語の断片を、当世の読者にも分かりやすいように新たに整理し、編纂し直したのがこの「異説集」である。我らが栄光のフリナリカ王国の正史というにはいささか猥雑に過ぎると感じられる向きもあろうが、これも一つの歴史の見方、真実の側面である。眠れぬ夜の慰みにご一読頂ければ幸いである。また編纂者同様ペンを執る同業の皆様におかれては、この奇妙な書物のページを繰るごとに出会う新たな解釈に大いに研究意欲を刺激されるのではなかろうか。そうなるよう努力した。どうか柔軟な態度で最後までページを繰って頂き、共に王国の真の姿に想いを馳せようではないか。

※出版社註
 この序文はクガッハ四世第百四十九代国王陛下の恩赦により、編纂者による原文を掲載した。しかしながら現在この異説集は正史、またはそれを補完する正式な資料として認められていないので注意されたい。


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